“背負い水”が失われていく

荻野アンナさんの小説に、『背負い水』という作品があります。
この小説は、平成3年に芥川賞を受賞していますので、ご存じのかたもいらっしやるかと思います。

背負い水というタイトルは、何を意味しているのでしょう。
作者の荻野さんは小説の中で、こんな風に説明しています。

「ヨーロッパのある地方に背負い水という言い方がある。
人間は皆、一生飲む分量の水を背中に背負って生まれてくる。
これがある間は寿命がある。
飲み尽くしてしまうと後が無い」

この考えは、荻野さんのフィクションではなく、実在する、昔からの言い伝えです。
しかも、単なる迷信ではなく、医学的にも実証できると考えています。

私たちの体は、約60兆の細胞によって成り立っています。
そして、細胞の内外は体液と呼ばれる水に浸されています。
そのため、体を構成する要素の中で、いちぱん多いのが水なのです。

生まれたばかりの新生児は、なんと体重の約75~80%が水分です。
ちなみに、新鮮なスイカの水分は80%以上ですから、赤ちゃんの肌が実にみずみずしい理由がおわかりでしょう。
それが、成長するにつれ水分の比率は徐々にへっていき、成人男性では体重の約60%、成人女性では約55%になります。
女性は男性よりも皮下脂肪が多いので、それだけ水分の割合が少なくなっています。
それから、肥満気味の人も、これらの比率より若干低くなります。
そして、お年寄りになると、ほぽ50%前後になってしまいます。
ちなみに、人間は水分が50%を大きく下回れば生きていけません。

このようなことから、荻野さんが言うように、人間の一生は、生まれたときに背負ってきた水を喪失する過程である、と言えると思うのです。
これを「老化とは乾燥のプロセスである」と表現しています。

 

2013/09/17 “背負い水”が失われていく はコメントを受け付けていません。 水と老化